プレゼント
ずっと昔は、自分の名前があまり好きではなかった。
ゆき、という響きは日本人にとって雪を連想させるし、なんだか自分にはおしとやかでおとなしすぎるような印象だったから。
現に小説や漫画のキャラクターでも、ゆき、という名前のキャラクターは大体控えめでミステリアスで言葉少ななパターンが多いように思われる。
私は海の近くの田舎の生まれなのだけれど、昔からすこし、ふるさとで浮いていた。
父は地元のひとだったけれど、母は東京で育っていて、明らかにほかのお母さんたちとは違っていた。
母のスタイリッシュな洋服のセンス、抜けるように真っ白な肌、おっとりとした標準語。
私は他の女の子たちと同じように、薄いピンクのリボンが沢山ついた野暮ったい服を着たがったけれど、母はそれを絶対に許さなかったし、代わりに与えられたのはスキニーなショッキングピンクのワンピースだった。
私は母に似て日本人離れした顔立ちだったし、言葉もうまく地元になじまなかった。家は父の事務所がくっついているせいで大きかった。
それだけで、ちいさな田舎町で浮くには十分な要素を持っていた。
だからこそ、嫌だったのだ。ゆき、なんてお嬢様みたいな名前。
案の定小学校でも、中学校でも、高校でも私はお嬢様扱いされたし、それは一種の仲間外れみたいなもののように思えた。
それだけで、ちいさな田舎町で浮くには十分な要素を持っていた。
だからこそ、嫌だったのだ。ゆき、なんてお嬢様みたいな名前。
案の定小学校でも、中学校でも、高校でも私はお嬢様扱いされたし、それは一種の仲間外れみたいなもののように思えた。
お嬢様扱いされるのが嫌で、きたない言葉を覚えて積極的に使ったし、男の子と喧嘩したりもしたし、家や成績の話は一切しなかった。
仲の良い友達もいたし、ふるさとは好きだったけれど、どこか違うんじゃないかと思いながら暮らすことはさみしかった。
大学に上がってやっと、自分の名前を好きになれた。
しあわせを願って必死に考えてくれた漢字。
初対面のひとが私の名前を見て、ご両親に愛されているんだね、と言ってくれることが嬉しかった。
そして気づいたのだ、自分は大人になったんだと。母のことも、家のことも、友達のことも、浮いていたことも、すべてしょうがなかった、と思えるようになったこと。
誰が悪いわけでもなかったし、それが自分だったのだと。
名前は親が子供に一番初めにくれるプレゼントだと、なにかで読んだことがある。
私もいつか、子供が好きになってくれるような名前を考えてあげたい。